STORY
早朝の民家で老人と訪問介護センターの所長の死体が発見された。捜査線上に浮かんだのは、センターで働く斯波宗典(松山ケンイチ)。だが、彼は介護家族に慕われる献身的な介護士だった。検事の大友秀美(長澤まさみ)は、斯波が勤めるその訪問介護センターが世話している老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの自宅での死者が40人を超えることを突き止めた。
真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。すると斯波は、自分がしたことは『殺人』ではなく、『救い』だと主張した。その告白に戸惑う大友。彼は何故多くの老人を殺めたのか?そして彼が言う『救い』の真意とは何なのか?
被害者の家族を調査するうちに、社会的なサポートでは賄いきれない、介護家族の厳しい現実を知る大友。そして彼女は、法の正義のもと斯波の信念と向き合っていく。
映画コメンテーター LiLiCo
本当に国が抱えているシビアな社会問題と人間が心の奥底に秘めた罪悪感のリアル。どんなに尽くしても、どんなに頑張っても、例えどんなに嫌いになって無視したとしてもこれで良かったのか?の気持ちが自分とともに生きつづける。綺麗事を並べて、自分の気持ちを押し殺して、身体と心が張り裂けそうになる。家族の絆と苦悩は他人にはわからない。何が正解なのかもわからない。心の雄叫びが俳優みんなから溢れて....見終わってから自分の心と向き合うことですらちょっと怖くなるテーマをこんなエンターテイメントに仕上げられたのがすごい!
やられた・・・
日本福祉大学社会福祉学部教授 湯原悦子
(社会福祉学博士、日本福祉大学ソーシャルインクルージョン研究センター長)
社会福祉を研究する立場として拝見し、素晴らしい映画だと思いました。介護をしていく上で直面するさまざまな困難、そして社会から孤立し追い詰められていく様子がとてもリアルに描かれています。また、介護を受ける本人の苦しみも描かれており、多く裁判を見てきた私にとっては「まさにその通り」と感じる描写でした。この作品のテーマは「なるべく目を背けていたいこと」なのかもしれません。しかし今の日本が直面している重要な社会問題であり、介護は誰もが少なからず関わることでもあります。ぜひ多くのみなさんにこの映画をご覧いただき、「自分だったらどう受け止めるか」を考えるきっかけにしてもらえたらと思います。
フリーアナウンサー 笠井信輔
なぜ? 42人も殺害した男の動機に心動かされるのか? なぜ? 追い込むはずの検事が、この男に追い込まれてゆくのか? そして、なぜ? 空前絶後の大量殺人に涙してしまうのか? 答えは、すべてこの映画の中にある。
絆は呪縛・・・
そう言われて、あなたはどう感じるだろうか?
他人事じゃないすべての人に当てはまる。
これは、あなたとあなたの家族の物語。
老年精神科医 和田秀樹
以前の大新聞の調査で日本の介護殺人は3年8か月に179件というものがあった。
年間1000件も殺人が起こらない国で、5%は介護殺人だということだ。
もちろん幸せな介護はあるが、それが呪縛となる地獄の介護もある。
だから私は施設介護を患者家族に勧め続けてきた。
原作のサスペンスも素晴らしかったが、
それとは違った角度でいつ起こってもおかしくない事件の心象風景を淡々と描く前田哲監督の力量に感服させられた。
京都教育大学教育学部教授 黒田恭史
(映画『ブタがいた教室』のモデルとなった元小学校教師)
映画『ブタがいた教室』の製作の時から、前田哲監督は、答えのない問いに正面から立ち向かう人だと感じていました。映画『こんな夜更けにバナナかよ』では、筋ジストロフィーになりながらも明るく、時にわがままで周りを振り回す主人公と、小学校教員を目指すボランティア女性との心の交流を通して、人間が生きるということの意味を問う作品でした。そして、映画『ロストケア』では、家族と介護という、輝かしい表の世界ではなく、誰もが心の内に隠したくなる裏の世界と真っ向から向き合い、対決し、改めて生と死を見つめ直した作品です。
命の三部作は、回を重ねるにつれ、その輝きをさらに増しています。
前田監督すごいじゃん!